町工場エリアにマンション!! 生じる問題点とは ~住工混在地域における住民と町工場の共存を考える~


(更新日:2016.08.04)
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 みなさんのお住いの地域に、町工場はありますか?
 もしなければ、町工場がある地域に「暮らす」という状況を想像してみて下さい。仮に引越し先の隣家が金属加工を行う職人さんの町工場であったなら、日々の生活の中であなたは何を思うでしょうか。
 
 ここ20年ほど、日本・世界の経済動向の変化が頻繁に報じられ、日本の製造業についても、その85%以上を占め戦後日本の経済・技術発展を支えてきた地域の小規模企業(中小企業全体では製造業の約99.5%)の経営難が取り沙汰されるようになりました*1。そこでの重要なテーマは、後継者不足や事業所数の減少、日本産業の国際的競争力の低下など、経営者的視点からの課題が主となっています。もちろん、これらはその重要性に疑問を差し挟む余地はなく、継続的に議論されていくべきでしょう。

 しかしながら、今回は視点をもっと「近く」し、「地域性」にスポットを当てて現在の町工場の実態の一部を見てみましょう。
 冒頭の質問のごとく、町工場が集中する工場集積地では、ここ数年、比較的地価の安い工場跡地に住宅・マンションが新築されてきています。その結果、地域の事情を知らない新住民と町工場との間で、工場の騒音・振動等に関するトラブルが増加してきました。
 こうした住宅と工場が混在する地域、すなわち「住工混在地域」での、地域住民と工業の共存という観点から、日本のものづくりを支えてきた町工場について、一度考えてみましょう。戦後の日本経済発展の歴史や新たなまちづくりの可能性が見えてくるかもしれません。

*1 経産省調べ(2007年)


住工混在問題のミソ① ~詳細~

一般的な住工混在状況について、参照資料を手がかりに少し詳しく見てみましょう*1。
 
【住工混在状況における問題とは?】
住工混在問題とは,住宅と工場が混在することで生じるさまざまな問題のことであり,多くは工場側が近隣住民に与える負の影響,たとえば騒音,振動,臭気,埃などといった公害の発生や,工場の大型車の積降作業に伴う交通渋滞などである。

<1950~60年代 旧い住工混在問題>
住工混在問題が深刻化し,市街地など住居と工場が近接していた地域の多くの工場が,郊外に移転を余儀なくされた。そうした問題が起こりうる所在地は,主に人口が集中する大都圏であり,問題の顕在化によって,政策的にも工場の郊外移転が促進されることになった。

<1980年代 新しい住工混在問題>
住宅の建設が急増し,工場の跡地の有効活用として中高層マンションや新興住宅が建設されるというケースが生じる。工業集積地は土地が比較的安く,市民からすれば,物件を安価で取得することができる。その土地のことをよく知らず,また当該地域の産業活動に関心の薄い新住民が物件を安価に取得し,その土地に居住することになる。これにより,新住民が近隣の工場とトラブルになるケースが生じる場合がある。これが新たな住工混在問題である。

<何を考えるべきか>
・こうした住民との軋轢の中では、もとより立地していた工場は操業しにくくなり,他地域に移転、ひいては廃業を余儀なくされかねない。
・住工混在問題が製造業事業所数の存続にどの程度の影響を及ぼすかは未知数ではある。しかし,大都市圏の工業集積地域における製造業事業所数の減少は著しく,新たな住工混在問題が,製造業事業所数の減少を後押しする可能性が少しでも考えられるとするならば,新たな住工混在問題は当該地域における産業振興の観点からするとより深刻な問題であると考える。
・工場跡地に住宅や商業施設などが立地することにより、産業集積の空洞化が進行している。その結果、工業集積地のメリットであった産業集積の機能が失われつつあり、工業地域としての活力や競争力が低下という問題も生じている*2。

*1 関智宏・立見淳哉「住工混在問題と産業集積*─大都市自治体における先駆的取組の事例分析を中心に─」阪南論集 社会科学編Vol.44 No.1 pp.19-35 
 http://www.ronsyu.hannan-u.ac.jp/open/n001990.pdf
*2 「工場からの発信 From Factory-ものづくりを学ぶ-」HP
 http://www.remus.dti.ne.jp/kojyo/topics/t20100414.html


住工混在問題のミソ② ~背景~

 現在の住工混在問題の背景にはどのようなことが考えられるでしょうか。 

 まずはおさらいです。
 現在起こっている住工混在問題の直接的原因は、サービス業への産業比重の推移や近年の景気悪化の煽りなどを受けて減少した町工場の跡地に、新たな住民が外部から転入してきたことでした。こうした住民の流入は、経済や産業の時代的変化にともなう必然だということができるでしょう。
 
 ただ、注意したいのは、この新住民流入による住工混在自体が問題になるのではないということです。
 住工混在状況は江戸時代から日本にも存在しましたし、職/労働力が得やすいなど、住民・企業双方にとってメリットがあることは事実です。しかし同時に、騒音・振動などの公害が多い/公害予防策が負担など、両サイドにとってデメリットをもたらすことも認めなければいけません。

 とすれば、ここでの本質的問題として考えられるのは、「住工混在状況を前提としたまちづくりヴィジョンの欠如」です。

 これまでの都市計画やまちづくりにおいては、地域の住民と企業とがどのように共存していくかという視点に立ったテーマがあまり議論・検討されてきませんでした。長期的に見ると1950年代以降、短期的に見ても1980年代以降、工場と住居の調和を促す行政側の制度づくりが行われてこなかったことが、現在の問題の最大の背景の一つとして考えられます。

 今後は、都市計画というより広範な展望を視野に入れて、時代に遅れを取らない産業集積地として住工混在地域がよりよく機能するような制度設計を、行政の主導で行っていくことが必要でしょう。ただしそこでは、一般住民と企業の双方、そして商業といった様々な利害に関わる地域住民が協議に参加することが不可欠になり、そうした議論スペースを設置することが優先されることになります。制度の担い手である行政が率先して取り組みながらも、産業集積地として最大限地域の活力を引き出せるような制度設計・まちづくりを、あくまで住民と企業の意見を反映させて実施していくことが、地域の存続にとって大切です。


住工混在問題のミソ③ ~地域ごとの取り組み~

 ここでは、以上のような住工混在状況のもとで起こる課題に対して、各地域がどのような対処策をとっているかを概観したいと思います。住工混在問題への先進的な取り組みを行っている地域のうち、特に東京都大田区と大阪府東大阪市の事例を取り上げてみましょう。

①東京都大田区の場合
 公害問題が深刻化した1960年代、大田区では対策として工場を埋立地に分散移転したが、一部の内陸部の中小零細の工場は移設することができなかった。1980年代に新たに流入した住民との摩擦という問題が発生すると、それら中小零細工場の活力を生かすために,工場と住居とがうまく調和したかたちでのまちづくりを進める方針を打ち出した。
 そこで大田区では、全国に先駆けて住工調和環境整備事業を実施しした。
 その1つが、工場から生じる音や振動を防止し、工場と住居とが同居することができる工場アパートの建設である。2008年2月現在において,大田区内に4つの「工場アパート」がある。
 また,工場跡地にマンションなど集団住宅の建設を未然に防止すべく,開発指導を設けている。同時に、新規住民に対する騒音・振動などへの対処法や工場の操業環境保全に関する説明を、入居者に対して事前に行ってもいる。

詳しくはこちら↓
大田区HP http://www.city.ota.tokyo.jp/sangyo/kogyo/kagayake/monozukurimachi/hou_fac.html

②大阪府東大阪市(高井田)の場合
 西日本有数の一大工場集積地域である東大阪市(高井田)では,工業地域であるということを,地元住民に対して,また工場主についても互いにきちんと認識してもらうことを目的に「まちづくり協議会」を2004年に設立した。同時に、地域文化の継承と操業・居住環境整備を促すため、ニュースの発行など周知活動に取組んでいる。さらに,事業所の操業内容などについて苦情を申し出ないということを,事前に工場主と,開発者や新住民との間で協定を締結する取組を行っている。

詳しくはこちら↓
高井田まちづくり協議会HP http://www.takaida.jp/takaida/

参考文献
関智宏・立見淳哉「住工混在問題と産業集積*─大都市自治体における先駆的取組の事例分析を中心に─」阪南論集 社会科学編Vol.44 No.1 pp.19-35 
http://www.ronsyu.hannan-u.ac.jp/open/n001990.pdf


日本製造業の新陳代謝

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 少し一般的な話になりますが、経済産業省「工業統計表」から、日本の製造中小企業の現状を見てみましょう*1。

 日本の製造業における事業者数別中小企業数は、2000年から2009年まで減少傾向にあります。また、2000年からの企業数の増減率を従業者規模別に見ると、おおむね従業者規模が小さな企業ほど企業数が減少していることも分かります。この事実は、しばしば日本の製造業、ひいては日本経済全体の将来がペシミスティックに語られる所以の最たるものでしょう。

 しかしその一方で、実は上のグラフに示されているような現状もあります。製造業における中小企業の総数は年々減少しているものの、開業数は2000年以降も一定存在し続けているのです。言葉を変えれば、産業の活性化に必要不可欠な新陳代謝は、現在の日本製造業でも健在だということであり、この事実はもっと注目を浴びても良いでしょう。

 ここで本来のテーマである住工混在状況についてこの事実を考えあわせれば、新たな視野が開けるかもしれません。
 例えば、イノベーションや学習の場として地域との協調を目的の一つとした町工場が新たに開業していけば、現在の住工混在問題の解決の糸口がつかめるでしょう。国や地方自治体の後押しを得たこれらの施設が開業すれば、サービス業を含めた雇用の増加も見込めるでしょう。
 製造業に直接関係しない地域住民をも巻き込んだ「新しい産業集積地化」が大切になってくると考えられます。

*1 経産省・中小企業庁 http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H24/H24/html/k311000.html

[Photo:http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H24/H24/html/k311000.html]

96

http://www.trapro.jp/articles/96

 

町工場に関する別の記事です。
こちらでは、日本の産業を支える中小企業である町工場の経営と、そこで生産される高付加価値製品のあり方について述べられています。
併せて読むことで、町工場に対する多角的な視点を持つことができるのでオススメです。

Story

http://hamarepo.com/story.php?story_id=1171

 

ちなみにこの問題意識、ツアーになる予定です。
訪れるのは、東芝や味の素など大企業が工場を有する神奈川県川崎市、その中でも町工場が点在する下野毛という地域。
そこでは住工混在問題への対処がまだこれからという地域で、町工場が現在直面している課題を直に目にする貴重な機会になることでしょう。
https://traveltheproblem.com/tours/23

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